2009年3月16日月曜日

【インタビュー】ライフネット生命、出口社長が語り尽くす生命保険のカラクリと原価開示のスゴさ(後編) (1) 付加保険料設定に関する3つのチェックポイント | ライフ | マイコミジャーナル


  • 目次
  • 次へ

生命保険ほど、価格設定が不明確で、比較もできない商品はないと言い切る、生命保険業界の風雲児、ライフネット生命保険(以下、ライフネット生命)社長・出口治明氏。前回に引き続き今回は、生命保険料の価格設定がどう行われているか、そのカラクリと実際の原価について解説してもらう。

生命保険料は原価にあたる「純保険料」と経費にあたる「付加保険料」で構成される

——前回も生命保険料の原価について、カンタンに解説いただきましたが、もう少し詳しく教えていただけますか?

ライフネット生命保険 代表取締役社長 出口治明(でぐちはるあき)氏プロフィール

大学を卒業後、日本生命保険相互会社に入社。企画部や財務企画部にて経営企画を担当。生命保険協会の初代財務企画専門委員長として、金融制度改革・保険業法の改正に東奔西走する。ロンドン現地法人社長、国際業務部長などを経て、同社を退職。2005年より東京大学総長室アドバイザーを勤め、2006年に準備会社を設立。2008年より現職。

出口「生命保険料は保険の原価にあたる部分『純保険料』と生命保険会社の運営費や営業経費、すなわちセールスパーソンへの給与などの手数料部分にあたる『付加保険料』の2つから構成されています。前回も説明しましたが、純保険料の部分は、契約者の年齢による死亡率などによって算出されるので、どこの保険会社でもほぼ同じ金額になります。

違いは経費部分、つまり手数料にあたる『付加保険料』をどれほど上乗せしているかという点です。付加保険料設定に関しては大きく3つのチェックポイントがあります。

まず、第一は、そもそも実際の経費にどれくらいかかっているかということです。生命保険会社は装置産業型の金融機関ですから、いわゆる共通経費(オーバーヘッドコスト)が大きな割合を占める傾向にあります。

次に販売経費、代表的なものとしてはセールスパーソンへの手数料といった経費がどのくらいかかっているのかということも重要です。私はその部分が高いから悪い、安いからよいということをいうつもりはありません。電話1本でセールスパーソンが来るのだから、毎月5,000円払ってもいいと思えばそれでいいのです。でもセールスパーソンが電話で来るだけで、毎月5,000円は嫌だ、私は毎月800円ぐらいしか払いたくないと考えれば、メーカーと消費者が直結しその間にセールスパーソンを置かないライフネット生命を選んでくださればいいというわけです。

そういうことがわかる情報が公開されて初めて、お客さまが、自分の意思で生命保険を選択できるようになるのではないでしょうか?」

——営業経費の件はつい、高くとっているのではないかなどと、私たち消費者は被害者意識をもってしまいがちですが、確かにそこは価値観の差ですから、選択は自由ですよね。ただ、選択するための情報が公開されていないのが、問題ということですよね。

出口「そうです。しかし、付加保険料設定の問題は、高いか低いかだけではありません。第2のチェックポイントとして、商品ごとの経費率格差があげられます。生命保険商品には、たくさんの種類があります。死亡保険や医療保険などの掛け捨て保険から貯蓄性の強いこども保険や年金保険などの生存保険まで、幅広いラインナップがあります。このなかで、どの商品からも同じ割合で経費を差し引いているのかという点です。

生存保険に契約した人は、毎月1万円の積み立て保険に加入して、1年後に解約すれば、積立金はおそらく12万円はあるはずだ、と思われるでしょう。ところが、死亡保険の場合、毎月1万円の保険料を支払っても、1年後に解約した場合、解約返戻金がゼロでも、自分の12万円は、この1年間に亡くなった人のために使われたのだと、納得できるのではないでしょうか。この例のように、積み立て保険のような生存保険は、消費者が"預金"との連想をしやすいものである為、手数料を乗せにくい商品特性があります。ところが、死亡保険や医療保険は預金のような比較対象がない為、手数料を埋め込みやすいのです……続きを読む。

この記事をブログに転載する

page: 2

若年層のほうが付加保険料の割合が多くなる

出口「第3のチェックポイントとしては、世代間格差といってもいいと思いますが、契約年齢による経費率の違いという問題があります。最近の生命保険会社間や他の金融機関などとの競争条件を考慮して、たとえば、市場拡大が期待できる高齢者向けの貯蓄性商品や節税商品などは、やはり経費率を低く抑えたいという意向みたいなものが働いたりします。それが20歳から40歳代という生命保険をもっとも必要とする子育て世代に高水準の経費率を強いることにつながっているとしたら本末転倒ではないでしょうか。子育て世代の所得はとても低いのです。実際図を見ていただければわかりますが、30歳加入と40歳加入では、40歳加入の経費率が46%なのに対して、30歳加入の経費率は62%にもなっています(下図)。保険をもっとも必要とする層にしわ寄せがいっているという本末転倒な結果だと私は思うんですよ。」

若年層の死亡保険に経費(付加保険料)が上乗せされがち(大手の社の例・3,000万円10年定期保険)

※クリックすると拡大画像が表示されます

※出所 : 日本経済新聞2004年11月7日

———こうした保険料の経費率の視点を認識して、各社の保険料比較表をみると、まさに驚くべき結果になるのがわかりますね。(下表)

出口「定期保険は掛け捨ての死亡保険です。ライフネット生命で、原価にあたる純保険料が2,669円(死亡保障:男性30歳、死亡保険金額3,000万円、保険期間10年の場合)であることを公表していますから、各社とも同じ条件の保険なら、ほぼ純保険料は同じであると推定できます。各社の保険料自体は調べればわかるので、そこからライフネット生命が公表している純保険料を差し引けば、残りが付加保険料、つまり、経費に充てられる部分であることがわかるわけです。」

生命保険料の内訳比較(30歳 / 男性 / 10年定期 / 保険額3千万円の場合)

※純保険料を各社同じものとして、ライフネット生命が公開している純保険料より試算

※マイコミジャーナル 2009年2月末調べ

——経費率が50%を超えるのも当たり前のことなんですね。同じスペックの保険で、これだけ値段が違うのもおかしな気がしますが、それが経費かと思うと、やはり消費者としては、驚きです。

出口「そこで、生命保険各社はサービスや信頼性の問題をよくコメントされます。ライフネット生命はインターネット販売だけでサービスが悪いから手数料が低いんだといったことですね。でも、私たちのコンタクトセンターでは平日は22時まで対応しているんですよ。普通に仕事をしていらっしゃる方が、17時や18時に生命保険のことで電話できないですよね。だから私たちは22時まで電話対応をしています。私たちは値段が安く、しかも電話は遅くまでかかるんですよ。」

出口「あともう1つ皆さんにお伝えしておきたいことは、ライフネット生命はできたばかりの保険会社ではありますが、私たちの会社は資本が132億円(資本準備金含む)ありますし、ソルベンシー・マージン比率が3万%を超えているということです。

できたばかりの会社が信頼されないのはわかります。よく皆さんに言われるのは、生命保険って支払われるのは5年先、10年先でしょうと。今ライフネット生命はいい会社かもしれないけれども、ライフネット生命に入るのは正直心配ですと。なぜなら、できたばかりの会社で、5年先、10年先は分からないと、こう言われるんですよ。

確かに決算も一度も済ませていない今の段階で、ライフネット生命には信頼がいただけないかもしれません。ならば、信頼がない会社は何を成すべきかということを考えました。結論は、お客様に見えないリスクを最小限にするということです。

1つは、私たちが取り扱う商品は2つとも掛け捨てです。何故、掛け捨てですかということですが、答えは簡単です。新しくつくった保険会社ですから、予定利率は昨今の金利情勢を反映して低水準です。予定利率が低くて掛け捨てだったら、万が一ライフネット生命がなくなっても、セーフティネット(生命保険契約者保護機構)によって、生命保険契約のリスクは、最小限に抑えられます。

もう1つは、去年の5月に開業しましたが、資産の運用に関して、当面は、株も、外貨も、不動産も、融資も、一切やらないと決めました。国債のような格付けの高い債券での運用のみです。もちろん、9月に金融経済危機が起こるとは思っていなかったのですが、結果的には正解でした。別に予言したわけでも何でもないですよ。ただ、愚直に、生まれたばかりの会社がリスクを取ってはいけないと思っただけです。」

——資本が132億円(資本準備金含む)であれば安泰ですよね。

出口「お客さまに迷惑をかけないように経営することは、生まれたばかりの会社であれば、当然だと思うんですよ。信頼がない会社が初めからリスクをとるっておかしいでしょう。だからそれは哲学の問題というか、会社の考え方の問題として、初めてつくった新しい会社は、そういうリスクを取ってはいけないというのが私たちの会社の考えです。だから信頼がないということを前提に、お客様にいかにリスクが及ばないようにするか、それを徹底的に考えてこの会社をつくったのです。」

———保険料のからくりがよくわかりましたし、どんな風に保険会社選びをするべきかも、認識できました。今日はありがとうございました。


聞き手 : 酒井富士子氏

経済ジャーナリスト。回遊舎代表取締役。
上智大学卒。日経ホーム出版社入社。
「日経ウーマン」「日経マネー」副編集長歴任後、リクルート入社。「あるじゃん」[赤すぐ」(赤ちゃんのためにすぐ使う本)副編集長を経て、2003年から現職。近著に「20代からはじめる お金が貯まる100の常識」(秀和システム発行)「FPになろう」「定年手続きダンドリスケジュール」(インデックスコミュニケーション)「編集長の情報術」(生活情報センター)。二児の母。

Posted via web from realtime24's posterous

0 件のコメント:

銀行株

Only Wire

    フォロー