“ 黒澤が代表作の一つとなる「天国と地獄」を撮影していたときのことだった。
劇中、証拠隠滅を謀る誘拐犯が身代金引渡しに用いた鞄を焼却した際に、仕掛けられた特殊な薬品のために煙突からピンク色(正しくは藤色)の煙が立ち昇る場面がある。
この作品はモノクロで撮影され、問題のシーンのみをカラーで描くのが黒澤の狙いだった。ところが黒澤のイメージした色がどうしても表現できず、実に苦心惨憺たる撮影になったと云うのである。これは実際に色付きの煙を煙突から出して撮影したのではなく、フィルムに後処理で彩色して色の表現を試みたもので、ロケ先で撮影の邪魔になる民家を立ち退かせるといった横車を引き慣れた流石の黒澤天皇も、純粋な技術上の問題となっては勝手が違ったようだ。
そして結局はどうしても解決が付かず、彼が最後に縋り付いた「藁」こそが、不仲と噂され、そして実際に電力や大ステージの奪い合いで対立したことのある円谷だったのである。
グラリと特技課のスタッフルームを訪れてこれまでの試行錯誤の経過を縷々説明し、「教えてください」とえらく素直に頭を下げた天皇・黒澤に対して、このとき円谷は、「そりゃあ君、オレンジ色のフィルターを通さないからだよ」と事も無げに答えたと云う。これまでの行き掛かりや、仲が悪いとする風説など毛ほども感じさせぬ快活な物言いだった。
結果、御託宣ならぬ円谷の助言のお陰で件の場面は無事仕上がり、映画「天国と地獄」を象徴する名場面の一つとなった。
後になって円谷はこのときのことを、「モノクロ映画の中で観客に色彩を見せようとするヤツのこだわりに対して、自分はカツドウ屋としての心意気を覚えたのダ」とスタッフたちにしみじみ語ったのだそうだ。” 私本・円谷英二外伝/神サマと天皇の話 (via gigan-yamazaki) (via minira) (via unsuns) (via nakano) (via kml) (via tnoma) (via yamato) (via reretlet)
2009年8月26日水曜日
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