2009年8月5日水曜日

[jp]これだけ知っていればもう国際広報のスペシャリストだ! ―プレリリを書く(読む)のに必須の10英単語研究

定型があると文章を書くのはうんと楽になる。「故○○儀告別式に際しましては、御多用中にもかかわらず…」とか「貴社ますますご清祥のこととお喜び申し上げます。さて今般、弊社…」とかこういうものをいちいち個別に文案を考えて書いていては時間と労力の無駄だ。読むほうも素人の「心のこもった」へたくそな長い文章を解読させられるのは迷惑このうえない。定型文ならちらりと見るだけで必要な情報が読み取れる(あるいは読む必要ないと分かる)。

英語でプレスリリースを書け、と突然言われても尻ごみすることはない。定型文の威力を利用すればよいのだ。昔から英作文は英借文といわれる。さいわい今はDocStocのような便利な文書共有サイトがある。ここで探せばスマート便座であろうとGoogle Mapsのマッシュアップであろうとたいていの製品のプレスリリースが発見できる。あとは固有名詞と数字を入れ替えるだけでほとんど用が足りる。

しかし、ただ文例を借りてきただけではいまひとつ「パンチが足りない」などと能天気な上司の指摘を受けるかもしれない。「なんかこう、もっとびしっとアピールするような文章にならんのかね?」

それは意外に簡単だ。TechCrunchベルギー支局のRobin Wauters記者が「プレリリに欠かせない10単語」を選んでくれている。よい機会なので以下に日本の読者向けに多少の解説をくわえてみよう。この種の英文解読にも役立つと思う。

1 ) LEADING / LEADER

日本語だと「先進的な」という単語に近いが、これに「有力な、指導的な」という含みが加わる。シンプルでスマートに聞こえる(はず)。

CommodTec, Japan’s leading intelligent commode seat manufacturer, has partnered with International Sanitary Machines Inc. (日本の有力なインテリジェント便座メーカーのコモドテック・ジャパンは、今般、インターナショナル・サニタリー・マシンズ社と提携いたしました。)

2 ) BEST / MOST / FASTEST / LARGEST / BIGGEST / etc.

これはもちろんご覧のとおり。誰でも知っている形容詞の最上級だ。ただし、定冠詞 the をつけて使用する場合は、本当に一番であることを証拠立てる根拠が必要だということに注意しなければならない。日本の景表法でも同じことだが、根拠なしてthebest とやると後で当局からおとがめが来るおそれがある。おとがめが来ないような最上級の利用法の例文。

CommodTec, the world’s largest manufacturer of red commode seats engraved with our company logo, has just won the 2chan Award for the most uncreative use of the word ‘largest’ in the history of mankind.(わが社の赤いロゴをエッチングした赤い便座の製造者としては世界最大であるわれわれCommodTecは、「世界最大」ということばの人類史上もっとも意味のない使い方を表彰する2ch賞を受賞しました)。

3 ) INNOVATIVE / INNOVATION

これなくしては新製品のプレスリリースは成立しないといってよい。すべてのプレリリの母だ。「革新的な」あるいはカタカナで「/イノベーション」。

4 ) REVOLUTIONARY

「イノベーション」でもパンチが不足している感じたら、「革命的」の出番だ。第三身分の議員がジュー・ド・ポームに参集し憲法制定までは解散しないことを誓う。これがやがてバスチーユ監獄襲撃(下図参照)に発展し…といった事態がそうそう起きるわけもないが、日本語の「革命的」で140万件、英語のrevolutionaryに至っては400万件もあるのだから遠慮することはない。

bastille

5 ) AWARD-WINNING

現在分詞から形容詞を造り出すのは日本語が苦手とするところ。日本語で「~を受賞した」というと、「小学校3年生の3学期に皆勤賞を受賞した」というように目的語を示さないと落ち着きが悪い。ところがaward-winningは目的語を示さずに単独でも使えるところがミソだ。

Enjoy your toilet life with our award-winning revolutinary intelligent commode seat, SmartCommody II. (日本語訳省略)

6 ) DISRUPTIVE / DISRUPTION

Revolutinaryがいくらなんでも使われ過ぎたため、disruptiveが代替用語として台頭してきた。もとの意味は「ばらばらにされた、ちぎれた、壊れた」だ。英軍のカモフラージュ柄はdisruptive pattern material(DPM)と呼ばれる。core disruptive accident といえば「炉心崩壊事故」という最悪の原子炉事故を意味する。しかし、プレリリでは100%良い意味で使われる。「革命的」が使えるところにはすべてdisruptiveが使えると覚えておけばよい。

7 ) CUTTING / BLEEDING EDGE

ナイフやその他の刃物が素材に食い込んで切断していく状態を表す。訳語としては「最先端の」などとするが、単に「新しい」だけではなく、disruptiveと同様、「現状破壊的」であるという含みがある。日本のプレリリだと「従来から高い評価」「シェアNo.1」など安定性がアピールの中心となることが多い。逆にアメリカの場合は「現状を破壊すること」が「善」であるという価値観が基本にある。

8 ) NEXT-GENERATION

これは日本語でもふんだんに利用されているのであらためて使い方を説明するまでもないだろう。「次世代の」。「目についたバグを2、3個潰してスキンを変えました。あとスプラッシュ画面も新しくなってます」というのでは、いくらそれが事実であれ印象が薄い。ここは、

We are excited to announce the release of our next-generation commode seat control software, commodCon 5. (わが社はここに次世代便座コントロール・ソフトウェア、commodCon 5のリリースを発表いたします!)

というように元気よく宣言したい。ちなみに、 we are excited/pleased to do somethingというフレーズも覚えておくと便利だ。日本語だと「~とお知らせできるのを欣快に存じます」という感じ。日本語の口語だとうまく対応する表現がない。

9 ) STRATEGIC PARTNERSHIP

「戦略的提携」。戦略的というのは提携の枕詞として日本語でも普及しているから、そのまま使えばよい。特に注意する点はない。

We are pleased to announce that CommodTech K.K. and International Sanitary Machines Inc. have formalized their strategic partnership.

10 ) SYNERGY

相乗効果、シナジー。満潮時に台風が襲うといったように現実に相乗効果が発揮される現象もあるが、シナジーと表現されたときはstrategicと同様、企業の提携、合併、新規事業の立ち上げ、統合などがうまくいくという希望的観測を込めた枕詞。

This partnership is aimed at ensuring synergy and effecting savings aswell as greater efficiency.

と書くと、情報として中身はゼロなのに1行稼げるから便利だ。ただし翻訳の場合、1行まるまる無視はしにくいので困る。

その他) 

これ以外にも、覚えておくと便利な単語は多い。 ex. enterprise-grade, world-class, turnkey, premier, unparalleled, unrivaled.

元記事のアップデートにあるThe Gobbledygook Manifesto (PDF)は愉快。 筆者のデビッド・マーマン・スコット(David Meerman Scott)は邦訳もある『マーケティングとPRの実践ネット戦略(日経BP)』の著者だ(この本は教科書として一読の価値あり)。

〔お断り:最後にちょっと心配になったので付けくわえておくが、この記事はもちろんジョークだが、2、3割は真面目だ。陳腐な単語の使いすぎは反感を買うが、使えば便利なのも確か。とくに外国語で作文するときは陳腐な言葉のほうが誤解を避けられて安全な場合さえある。〕

〔画像:wikimedia

滑川海彦/namekawa01

Posted via web from realtime24's posterous

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