もちろん、僕は名家・名門の出ではない。資産があるわけでもない。事情があって母一人子一人。子どものころ、昼は駄菓子屋、夜遅くまで“袋とじ”の内職をしていた母を見て育った。
だから「後ろ盾」のない人生だった!と言ったらウソになる。新聞社に入社した途端「後ろ盾」がついて回った。早い話が今話題の「記者クラブ」である。官庁や大企業の記者クラブに所属すると、一般的な情報は自然と入ってくる。一日に2、3度、記事になるネタが提供される。発表を記事にすれば最低限度の仕事にありつける。新聞社もメーカーと同じで“原料”を加工して売る商売。“原料”が安価で手に入る記者クラブは実に便利なシステムだ。
その便利なシステムに参加できるのも新聞社、テレビ局という「後ろ盾」があるからだ。これまで“発表”から雑誌やネットの記者は排除されていた。「後ろ盾」の違いである。
しかし、お上(=権力)が進んで発表する事柄は必ずしも「真実」とは限らない。「いかにも本当らしいうそ」ばかりである。
そこで、先輩記者に「発表で記事を書くな! 足で書け!」と怒鳴られる。はいつくばって「真実」をあぶり出す。スクープ! 権力者を震え上がらせる快感は何とも言えない。
実はそこが、記者稼業の分かれ道。スクープの快感に目覚めるか? 大過なく発表ものを書き続けるか?
記者発表は薬物に似ている。乱用↓依存↓中毒という3段階で進行するが、同じように記者発表も「乱用」から始まる。
独自に(ということは独りぼっちで)取材すべき事項を「発表しろ!」と記者たちが要求する。その方が楽だ。お上も、記者を“発表漬け”にして、独自な取材ができないように仕向ける。両者の思惑が一致して「乱用」が始まる。
そして「依存」。権力はスクープにイチャモンをつける。裁判で負けると思っても記者を告訴するケースさえある。独自な取材活動でスクープを書くには覚悟がいる。そんな危険を冒すぐらいなら、発表に依存した方が(訴えられることもなく)楽じゃないか?と思ってしまうのが“発表依存症”。
そして、最後は自分の目で物事を分析できず怖くて怖くて……の「中毒」。新政権になって記者発表のやり方が見直されるのは、当然なのかもしれない。(専門編集委員)
毎日新聞 2009年10月13日 東京夕刊
2009年10月14日水曜日
牧太郎の大きな声では言えないが…:記者の「後ろ盾」依存症 - 毎日jp(毎日新聞)
via mainichi.jp
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