2009年10月14日水曜日

【コラム】ヘッジファンドのスイス脱出でロンドンは没落へ−M・リン--(ブルームバーグ) 梵天

http://www.bloomberg.co.jp/apps/news?pid=90920021&sid=a.Mp0JOngiSQ


【コラム】ヘッジファンドのスイス脱出でロンドンは没落へ−M・リン


 10月13日(ブルームバーグ):ジュネーブかチューリヒ、それともツークか。ドルを買い持ちにすべきか売り持ちにすべきか、弱気相場の中の反発か新たな強気相場の局面かといった投資戦略を考えるだけではなく、在ロンドンのヘッジファンドはスイスのどの地域に拠点を移すべきかを考える必要がある。

 所得税率が50%になるほか、欧州連合(EU)による新規制が相まって、ヘッジファンドは英国の首都を脱して、資本主義の申し子である自らの存在にもっと理解のある地域に移ろうとしている。

 これは、誰もが考える以上に大きな影響を世界の金融システムに与えることになるだろう。もちろん、現在既にそうした行動を取るファンドは数少ない。
 しかし、2つの大きな力が働いている。まず、ヘッジファンドは「群れる業界」だ。競争相手が存在するところに拠点を築こうとする。さらに重大なことは、かつてはヘッジファンドが投資銀行の存在する場所を目指したが、向こう5年でこの流れが逆になるということだ。

多くのヘッジファンドがスイスに拠点を移せば、投資銀行が後を追うだろう。スイスが勝者となり、ロンドンは永遠に敗者となる。

 ロンドンからスイスに拠点を現在移しているファンドは一握りだ。アンプリチュード・キャピタルは最近、本社をロンドンからスイスへ移した。
 ブレバン・ハワード・アセット・マネジメントはオフショア部門がジュネーブでのオフィス開設を検討していることを明らかにしている。
 コンサルティング会社キネティック・パートナーズは、過去1年半にヘッジファンド23社のロンドンからスイスへの移転を手伝ったと発表。業界誌ユーロヘッジによると、英国では2008年末現在、運用担当者1人のヘッジファンド957社が存在していた。


止められない流れ

 キネティックの創設者デービッド・バトラー氏は電話インタビューで、「4月以降、15人の運用者の転居を手伝い始めた。向こう2年でヘッジファンド運用者の2割がロンドンを離れ、その多くがスイスへ向かうだろう。スイスでは既に業界集団ができあがっているからだ。いったん弾みがつくと、流れを止めるのは非常に難しい」と語った。

 移転する理由は明白だ。来年4月から、英国は年収15万ポンド(約2100万円)超の個人を対象に50%の所得税率導入などの措置を実施する。
 欧州で最も厳しい税体系を持つ一国となるわけだ。これが近い将来緩む見通しはないほか、次期選挙で勝利する公算が大きい保守党にも撤回する計画はない。

 それだけではない。ヘッジファンドの借り入れを制限し、欧州を拠点とする銀行との取引を余儀なくさせるEUの新たな規制によってヘッジファンドは身動きが取りにくくなる。
 ロンドンのジョンソン市長は9月に、こうした規則でスイスなどEU非加盟国が「本来ならEU域内に残っていただろうビジネスや雇用を奪う」結果になるかもしれないとの懸念を表明したが、心配するのももっともだ。
 スイスへ脱出してしまえば、そう簡単に元には戻せないし、一握りのファンドにすぐに多くのヘッジファンドが加わるだろう。


最大の脅威

 高税率と新たなEU規制は、欧州の金融中心地としてのロンドンにこの時代最大の脅威をもたらしている。その理由は2つだ。

 まず、ヘッジファンドは羊のように群れたがる。投資戦略でさえ、しばしば似通うほどだ。
 群れてアイデアや戦略、スタッフ、技術、投資家や助言者を交換することで成長し、新たな構想を見いだし、競争力を保つ。
 このため、いったん複数のファンドがスイスへ移れば、他のファンドには後追いする動機が高まる。また、移ってしまえば、元に戻る理由はない。そのためには、スイスが税率を50%に引き上げたりすることが必要となろうが、そんな公算はあるのだろうか。

 次に、向こう5年でヘッジファンドの金融システムにおける重要性が増すことが挙げられる。

 ヘッジファンドは投資銀行に対して2つの強みを持つ。まず、EUの新規制があってもヘッジファンドに対する規制はずっと緩いし、スイスを拠点にすればEUの規制対象外となる。

 一方、政府からしっかり監視される金融危機後の銀行業界は保守的で動きも鈍く、リスク回避が主目的となるだろう。これでは成長は鈍化し、競争力も落ちる。対照的に、ヘッジファンドは新しいアイデアを試し、新資金を欲しいだけ調達するだろう。

 ヘッジファンドは革新の中核となり、余剰資金の真の源となるだろう。銀行はこうしたヘッジファンドの近くにいる必要がある。そこにビジネスが生まれるからだ。

 このため、金融センターとしての競争力を測る真の尺度はいかに首尾よくヘッジファンドを集められるかになる。この点において、スイスは英国に大きく水をあけている。

 そして、いずれは投資銀行がヘッジファンドに続いてジュネーブやチューリヒ、ツークに移り、ロンドンは取り返しのつかない状況に気付くだろう。(マシュー・リン)

(リン氏は、ブルームバーグ・ニュースのコラムニストです。このコラムの内容は同氏自身の見解です)


更新日時: 2009/10/13 13:27 JST
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(コメント)
 この記事を読んで賢明な読者諸氏は、日本との大きな違いに気が付かれただろうか。イギリスと欧州における所得税の最高税率50%への引上げと累進税率の実施である。
 なぜか日本のマスコミはこの事を報道しない。知らないのか、知ろうとしないのか。はたまた関心が無いのか。

 信用バブル破裂により金融機関に対する規制は強化され、デリバティブ、ヘッジ・ファンドに対しても新たな規制が実施される見込みなのだが、それはG20加盟国内での話だ。
 スイスはG20に加入していない。しかも税率を50%に引上げる事はしないだろう。はるか昔から金融で食っているし、昔からダーティマネーの集積地で権力者、資産家の財産を管理してきた。
 資金が流出するような税制はとらない事は明確だ。

 ヘッジ・ファンドは国籍もなければ、国家や民族に対する忠誠心がある訳がない。それは強欲金融資本の中心的存在だ。
 カネさえ儲かれば、どこにでもゆく、まさに「越境する投資主体」、「国籍無き資本」。
 そんな猛獣カネゴンに対してスイスは規制を行うつもりはあるのだろうか。それはまず無いだろう。
 スイスの銀行の規模は国家のGDP規模を遥かに超えてしまっている。先の金融バブル破裂で潰れなかったのが不思議なくらいだ。
 流動性の供給で持ちこたえたスイスが、ヘッジ・ファンドの移住を喜ばない筈はない。

 規制はまたしてもすり抜けられる。またしても投資銀行の資金運用の別働隊となるようだ。

 率直に言えば、空売りや強引な相場操縦で仕手戦よりも、もっと悪質な手法で売り買いするヘッジ・ファンドは市場から消えてなくなって欲しい。
 彼らは儲けの為なら、根拠のないデマ情報を雑誌や新聞に垂れ流し、株の空売りを仕掛けるくらいは平気だ。

 スイスに本拠地を移したヘッジ・ファンドがまたしても問題を起こさないと言う保証は何もない。そしてその舞台はアジアである可能性は低くないのだ・・・・

 ヘッジ・ファンドはどこへでも行く。手段は選ばない。その事をお忘れなく。  

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