-->それでは具体的にPIIGSのどこがいけないのかを実際に経済指標で見てみましょう。まず比較のために先進国のGDP予想を掲げておきます。これはIMFの数字で08年以降は予想値です。ここで皆さんに注目して頂きたいのは米国は2011年にかけて欧州各国を頭ひとつ引き離して成長すると予想されている点です。
さて、PIIGSですが全般に2009年のGDPの落ち込みが大きいし、なによりも2011年にかけての景気回復の度合いがとても鈍い点が目を引きます。
そしてPIIGSの経常収支ですがギリシャとポルトガルが極めて悪く、しかも悪い水準でとどまる予想になっている点が注目されます。
PIIGSの財政収支を見ると2010年にかけて軒並みGDPの5%以上の赤字となっています。
またPIIGSの失業率を見るとスペインは2010年には20%に限りなく近づくと予想されています。
欧州には中欧・東欧のようにPIIGSと同じくらいか、それ以上、中身の悪い国がゴロゴロあります。ラトビアなどの危機にひんしている国はそもそも経済規模が小さいのでその国単独では余りインパクトは無いと思いす。
でも投資家の不安は往々にして伝染します。
だからラトビアがこけたらそれがより大きな国へ飛び火しないともかぎらないのです。
そこでスペインに目を転ずるとこの国はかなり規模も大きいし、高失業率だし、極端に不動産に傾斜した産業構造になっています。だから飛び火する可能性が無いとは言えないのです。
下は最近、世界の投資家の欧州に対する不安が高まっていることを示すグラフです。
欧州で最も強い国はドイツですが、そのドイツの10年債、つまりブンズの金利に対してその他の欧州各国の10年債の利回りがどのくらいプレミアム、つまり「金利の上乗せ」を支払っているかを示しています。
或る国がハイリスクだと投資家から敬遠されはじめると高い金利を提示しないと買い手が現れなくなります。
このグラフが上に上がれば上がるほど投資家のリスク回避の気持ちが強くなっているという風に読みます。
ギリシャの利回りプレミアムが最近急騰していることが見て取れます。また赤のスペインも昔はフランスとおなじくらい信用度が高かったのですが、最近、投資家の不安が高まりつつあることがわかります。
アイルランドは実はかなり中身が悪い国なのですが、痛みを伴う財政改革を断行し、投資家の信頼感は増しています。だから今回、ギリシャに不安が走っている局面でもアイルランドの金利の上昇幅は小さいのです。
全体としてフランスのように投資家の信頼が崩れていない国と、ギリシャやスペインのように内容が悪い国という2つのグループに分けられ、しかもグループ間の格差が拡大していることがわかります。
これは一体、どの国の経済の事情に合わせて欧州連合全体の経済政策をきめてゆけばよいのかという問題を提起します。ドイツやフランスのような優等生を基準にするのか、それもとギリシャやスペインのような落後しかけている国を助けるべきなのか?それが問題になるのです。
言葉を変えて言えば、誰が運転席に座るのか?という問題です。
ドイツのような強い国は当然、インフレ抑制を最優先項目と考えます。でもEU内の不景気な国にしてみれば金利が高いのも困るし、通貨が強すぎるのも困るのです。ギリシャ、スペインをはじめとしたEU内のおちこぼれ各国の問題はだからEUの結束を弱くしています。若しギリシャの国債がジャンク・ボンドへと格下げされたら、その面倒は誰が見るという問題が生じるのです。
ヨーロッパの国がユーロ圏に入ると欧州中央銀行が金利を決めます。だから各国は独自に金利水準を決める自由を奪われます。またユーロを通貨として採用した場合、為替レートは当然ユーロになるので、これも自分で決めることは出来なくなります。
すると国内の財政政策だけが或る程度各国が自分のカイショで決めることが出来る項目となるのです。その財政に関してもEUメンバーは余り赤字を垂れ流してはいけないので財政赤字はGDPの3%程度が好ましいという所謂、スタビリティー・アグリーメントというガイドラインがあります。すると経済運営に欠かすことのできない3つの道具をメンバー国は自由に使えなくなるのです。
このような不都合に直面して、一部の国ではユーロなんか脱退しようという議論も出ています。それでは現在ユーロを使用している国が脱退できるか?についてはかなり難しいと思います。例えばイタリアがユーロをやめて、リラに戻ったら、リラは間違いなく暴落するでしょう。労働者は突然、リラの購買力が激減するので、賃上げを要求すると思います。またリラ建てイタリア国債はリスクが高いと思われ、高い金利を設定しないと国債は売れないと思います。これは市中金利が上昇することを意味します。このように脱退はいろいろな困難を引き起こすのです。
ユーロを律してきた財政規律は一旦、棚上げにしてまでもこれらのおちこぼれ各国を救うべきなのか?この不透明感がユーロという通貨の存在をフニャフニャしたものにしているのです。
いまドルが強くなるのであれば、去年成功した投資のストラテジーは全部根本から見直ししないといけなくなります。
去年はドルが弱かったからこそ投資家のお金はゴールドや原油や新興国に流れたのです。これらの投資対象はリスクトレードという風に呼ばれることもあります。
つまり今年の投資戦略で最も気をつけないといけないことは、去年成功したからという理由だけで今年もリスクトレードが成功するとあたまからきめてかかることです。
タグ : 2010年の投資戦略 ? -->2010年01月16日06:34ユーロという通貨は喩えて言えばキャデラックみたいな乗り心地です。つまりフニャフニャして加速も遅ければブレーキが効くのも遅いのです。
なぜユーロはそうなってしまうのでしょうか?これは欧州連合という政治システムの構造上の問題が関係しています。つまりEUは寄せ集め軍団なので、いちばんモタモタしている国に調子を合せなければいけないということです。妥協につぐ妥協で金融政策のかじ取りが切れ味にかけるものになってしまうのです。
ユーロ圏は全部で27カ国から成っています。その中には利害の異なる国々が共通の経済的便宜を享受するために一緒になったという事情があります。景気が良いときはそういう便宜優先の共同生活はOKですけど、お金のトラブルが起きると愛の無い同居生活はトラブルつづきになります。今のユーロはまさしくそういう状態であり、だからこのところユーロが売られているのです。
ヨーロッパの低成長国の問題は昔からありました。でもなぜそれが最近になって急に注目されるようになったのでしょうか?
ある事件がきっかけになって経済同盟の見直しが促されることになったのです。
その事件とは中東のドバイの政府系企業、ドバイ・ワールドが債務履行猶予の要請を債権者に申し入れたことです。
ドバイ・ワールドは不動産開発などを進めている企業でパームツリーのかたちをした人工島、ザ・パームなどを開発している企業です。ドバイ・ワールドは私企業ですが、ドバイ政府がその株主であることから若し何かあればドバイ政府が尻拭いするだろうという思い込みが投資家の側でありました。
でもドバイ政府はドバイ・ワールド社の救済をしないと発表しました。
またドバイ政府にお金が無い場合でもその上部組織であるアラブ首長国連合、つまりUAEが尻拭いするというのが投資家の思い込みでした。
そのUAEも当初関知しないと発表し、投資家をおどろかせたわけです。
因みにドバイは観光、商業、交通、金融、港湾サービスなどでもっている町で、石油は出ません。莫大な石油収入があるのは隣町のアブダビです。
アブダビとドバイはともにアメリカで言えば州のような存在で、言うならばカリフォルニア州とテキサス州のような関係です。今回は世界の投資家が慌てたので、最後の最後になってアブダビ政府が当座の資金を用立てするということを発表し、事なきをえました。
翻ってEU、つまり欧州連合を見た場合、UAEの構造と似ていて個々の国の寄せ集めになっているのです。ギリシャに若しものことがあったら、EUが救うだろうと投資家は考えていたのですが、ドバイ事件が起こった直後にドイツのメルケル首相はEUはギリシャの尻拭いはしないと明言しました。これが不安が走る原因になったのです。
EUはもともと石炭と鉄鋼の生産調整をする機関として発足しました。当初メンバーはベルギー、西ドイツ、フランス、イタリア、ルクセンブルク、オランダです。その後、5回の拡大を経て現在の27ヶ国に拡大します。
第一回目の拡大は1973年でした。このときはデンマーク、アイルランド、英国が加わりました。
そして81年にギリシャが86年にポルトガル、スペインが95年にオーストリア、フィンランド、スウェーデンが加わります。そして最近の拡大では12カ国が加わり、全部で27ヶ国となったのです。そのうちユーロを使っているのは16ヶ国です。英国やデンマークはユーロを使っていません。
タグ : 2010年の投資戦略 ? 2010年01月16日06:30最初に結論を述べます。
ユーロは今年1年を通じて軟調な展開を予想しています。それは裏返せばドルが強いことを意味するので、ドルと逆相関にあるゴールドや石油は冴えないと考えています。
コモディティーがダメなときはBRICsなどの新興国株式も冴えないと思います。
だから米国株や欧州株や日本株の方が面白いと感じます。とりわけユーロ安は欧州の輸出企業を大いに助けると思います。ですからニュースとしてはヨーロッパから聞こえてくるニュースは悪くなるけど、株式市場のパフォーマンスはこれと裏腹に欧州株式市場はOK、そういう展開を想定しています。
なぜ私がそう考えるか説明します。
2003年から始まった景気拡大局面では世界の企業や個人が沢山の負債を抱え込みました。この傾向は2008年まで続きました。
しかし、サブプライム問題に端を発した金融恐慌で政府が銀行を支援したり公共部門の支出をドカンを増やすなど、景気下支えの役目を果たさざるを得なくなりました。
各国政府の積極的な関与で1930年型の大恐慌は防ぐことが出来ました。
しかし去年の12月くらいから新しい問題が生じ始めました。それはそろそろ政府が借金を背負い込むことも限界に近付きつつあるという認識が投資家に芽生えたということです。
政府の負債をどう圧縮してゆくのか?これが2010年の各国の直面する課題です。
とりわけ政府の中で、強い国と弱い国との格差が顕著になっています。ここで興味深い点は、昔は政府の信用が問題になるときは新興国から綻びが生ずることが常でした。
ところが今回は先進国のなかで、とりわけ慢性的に経済が停滞している国がだいぶ危ない状態になっているということです。つまりこれまでの先入観とはかなり違う、立場の逆転がおこっているのです。
いま経済成長と財政の健全さという尺度できわめて大雑把な分類をしてやると新興国の方が先進国より高い経済成長を遂げています。経常収支もプラスになっている新興国が多いです。また財政的にも新興国の方が先進国より保守的な財政政策をとっています。だからここは2010年のトラブルの震源地にはならないのです。
一方、アメリカは物凄い勢いで財政出動した関係で財政赤字はGDPの13%程度まで膨らみました。きわめて醜悪な内容です。しかし危機が襲ってきたとき、まっしぐらに金融を緩和し、ドカンと政府部門の支出を増やしたので、メリハリの利いた経済の誘導が出来ました。その関係で2011年には先進国の中では最も高いGDP成長率に躍り出る可能性が強いです。
この反面、去年の不況の際も欧州中央銀行は量的緩和政策などの思い切った処方はなるべく控え、節度のある政策に終始しました。その結果、2011年にかけてのリカバリーという点では米国には劣ると思います。
また十分に緩和策をとってギリシャやスペインを救わなかったことで、今になってこれらの落ちこぼれの国とドイツやフランスなどのEU内での優等生の国との格差が物凄く広がりつつあります。
具体的には欧州の中でもポルトガル、アイルランド、イタリア、ギリシャ、スペインといった国々の財政事情が世界の投資家から心配されています。これらの国に共通するのはいずれも成熟国であり、経済成長のシナリオが描きにくいという点です。
見事な分析です。
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