あまりその印象がないが、オバマの本職は憲法学者である。ロースクール出身で弁護士資格を持っている政治家や大統領は珍しくはない。しかし権威ある「ハーヴァード・ロー・レビュー」の編集長を経て、憲法学者としてシカゴ大学で12年間にわたって教鞭を執るような、事実上のプロフェッサーだった憲法学者大統領は少ない。幅広い法律のなかで専門が憲法であるという意味でもだ。日本ではあまり知られていないが、アメリカの地方議員、なかんずく州議会議員というのは薄給であり、弁護士、教師など、何か本業のある人がボランティア的にやる「パートタイム職」と考えられている。オバマもシカゴ大学では「州議会議員をパートタイムでこなす人」として教職を得ていた。ロースクール側の認識はそうである。大学でもたまに教鞭を取っていた議員ではなく、「本業」が憲法学者なのだ。政治を「本業」にするようになったのは、連邦上院議員になってから、比較的最近のことである。シカゴ大学での正式の肩書きは、シニア・レクチャラーだが、シカゴ大学の職制ではこのポジションは教授待遇であり、個室と秘書を持っていたし、常勤職で自分の指導学生も抱えていた。大統領退任後は教壇に再び立ちたいのではないか、とすらシカゴのロースクールでは言われている。オバマの憲法学と教育への情熱を知っているからだ。
オバマのシカゴ大学のクラスでの試験は、人種問題や教育問題などをめぐる微妙なケースのストーリーをオバマが自ら創作し、そのケースを読ませ、時間内に「合衆国憲法に照らして自らの考えを述べよ」というものだった。期末試験でそのようなケースが二本組になったものを解かされる。パソコンでワープロ打ちした回答を提出し、オバマ本人がすべてに目を通して採点する。「メモランダム」と呼ばれる「解答解説」で、どのような憲法解釈が可能か、クラスのどの割合の学生がどのような解釈を選んだか、実例を示しながら、ケース問題ごとに期末後に配布した。同性愛、人種対立など、見方によってはかなり踏み込んだ、答えの出にくい同時代イシューを扱う講座として知られており、当時のシカゴ大学ロースクール学部長もオバマが授業で扱うケース選択について、そのアグレッシブな姿勢を高く評価していた。シカゴ大学ロースクールは、全米のロースクールの中ではもっとも保守的な学派の一つだ。しかし「フリー・マーケットを信奉するが、社会問題ではリベラル」という、「ユニバーシティ・オブ・シカゴ・デモクラッツ」という勢力が強く、オバマのその一人だった。意欲的な憲法教育が評価され、大学にテニュア(終身職)を提示されていた。
こうした経歴を有する憲法学者オバマにとって、最高裁の判事の人選で判断を誤ることは、他のどんな政策でのミスよりも恥といえるし、まさに見識と腕の見せ所でもある。それゆえに、近年のどの大統領の最高裁判事の選択過程と比べても、入念な選考が行われたとされる。最終判断では政治的判断が加味されるが、候補者リストの作成の段階から政治判断だけでリストをあげることはない。大統領本人が最終過程に残った人を長時間面談するが、ソトマイヨールについては6時間も面談したという。候補の過去の判例を調べ上げているし、そもそもオバマ自身がどんな側近よりも憲法や最高裁の判例に詳しい「プロ」であり、最高裁の判事になる可能性があるような全米の判事は知り尽くしている。台本なしに、最高裁判事に人格面以外の判例質問ができる、希有な大統領なのだ。その意味で、オバマという大統領の最高裁判事の選択は、これまでの大統領の指名とは異なる意味で実に注目に値するし、政争や選挙を睨んだ政治判断だけではなく、法律家の判断としての信頼がおけると言ってよい。
2009年6月22日月曜日
re: Love Love Love You, I Love You.
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